Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “あしたの練習”

 


何だかいつまでも小汗の引かない秋だったので、
いきなり、木枯らしが吹いただの、
今夜あたり、日本海側では本格的な雪がとか言われても。
何で? 何でそんな急に?って、
そんな疑問符つきな感触しかしなくって。

でもまあ、
そんなでも“現実”とはしっかり向き合わんと。
風邪拾って寝込むだけという、
非常におっかなくも面白くない結果が襲うだけなので。

 「それでにしても、随分な装備だよな。」
 「だよな。汗かいたら逆効果だっての。」

今時の薄いが暖かい下着とか、
今イチ信用してねぇんよ、ウチの親父はよと。
微妙にうんざりというお顔をし、
可愛らしいニットのポンチョの前を開けると、
えいっと
いかにも忌々しいと言いたげな態度で脱ぎ捨ててから。
まずはダウンなのだろブルゾンを脱ぎ、
その下に重ねていたらしい玉子色のベストを脱ぎ。
裾を出して来ていたネルのシャツを脱いで、
やっと現れたのが長袖のTシャツ、
かっこ 今話題にしたところの、
保温機能付きほにゃららシャツかっこ閉じる、
だったりし。

 「北海道だったら、このくらいは着てんぞって言われたけど、
  此処は都内だし、北海道でも湯気が出んぞ、これ。」

可愛らしくも賢そうな額に、
前髪が張り付いているのを拭いつつ、
だあもうと脱ぎ捨てた衣類のお山を睨んだ坊やだったが、

 “まあ、親父さんの気持ちも判らんではないしな。”

もう陽はとっくに落ちており。
だってのに出掛けるなんて言い出した小学生を、
まま、随分としっかりした子だから、
対人方面での危険はないと見越したとしても。
(おいおい)
風邪はどんなに屈強な人へも、
均等に襲い掛かる難儀な代物なんだぞと
説き伏せられちゃったらしくって。
寒い晩のお出掛けは、
こういうハンデキャップつきとしておけば、
そのうち面倒がっての、
出掛けるのをやめると言い出さないかなぁと。

 “その辺が狙いなんだろうなぁ。”

何かどっか、順番が違うような気がするんですが、
そこんところどうなんでしょうか、総長様。
あああ、この人も ある意味“お坊ちゃん”だから、
やっぱり物差しは違うのかな?
(苦笑)

 「で? 今日はまた、何の御用かな。」
 「〜〜〜〜〜。」

いくら何でも、こんな小さい子を、
陽が落ちればあっと言う間に真っ暗なこの時期に、
わざわざ呼び出すような真似はしません、葉柱さんも。
お父さんと喧嘩でもしたか、
いやいやこの装備を着て来たくらいだから、それはなかろう。
宿題を聞きに…は、それこそ頼る相手を間違えてるし。

 「今からバイク出せってのは無しだぞ。」
 「判ってる。」

寒いのはいくらでも防寒対策があるから構わんが、
明日は試合がある身だから…と、
そこまで言い出しかけて、ああとやっと気がついたのが。

 「何だよ、しょうがねぇだろが。
  応援に来れねぇのも、こっちが見に行けねぇのもよ。」

 「〜〜〜〜〜〜。」

実は実は、
明日は妖一坊やの小学校で学芸会が催されるのだが、
何たってこの時期の土曜日曜は、
隔週で試合があるアメフト大学生なので。
運動会はセーフだったが、
間の悪いことには学芸会がまともに重なった。
ちなみに、王城シルバーナイツは休戦日だそうで。
セナくんたら健気にも、
嬉しいのを必死で隠していたそうな。

 「歯医者の野郎が、
  ブルーレイのハイビジョンで撮影してやるから、
  それで我慢しなって言ってやがったし。
  試合のほうは、まあ、微妙な相手じゃああるが、
  馴染みでもあっから、気ぃ抜かにゃあ問題はねぇよ。」

そろそろ秋リーグも順位が確定し出す頃合いで。
今年は何としても入れ替え戦へなだれ込み、
そのまま勝って1部へ上がりたいところ。
なので、首位を目指すための集中も調整も、
きっちりとこなしている彼らだが、

 「〜〜〜〜〜。」

そういう正念場に入ったってのに、
その場に一緒出来ないのが、
ただただ詰まらない坊やなのであり。

  負けたら承知しねぇぞ。
  おお。
  点差もつけねぇと、後がキツイんだからな。
  判ってんよ。って、こら何すんだ。

ヘルメットや装備の手入れをしている手元へと、
よいせと割り込み、腿へまたがっての向かい合い。
なあなあと、何だか甘えての構えモードらしいところを見て取って。

 「今年は何すんだ? 寸劇か?」

宵も更けつつあるからと、
ちょっぴり低めたお声で聞けば。
ん〜んと小首を振った坊やが、くすくす微笑って、

 「歌を唄う。
  教科書に載ってたのと、もう一個は何とアニソンだと。」
 「おや。」

最近は割とメジャーなユニットが、
アニメの主題歌とか唄ってもいるんだけどな。
どっちにしたって俺も聞いたことがなかった歌でサ。

 「家でも唄ってたら、父ちゃんが知ってたのが意外で。」
 「……っ☆」

バイト先の“もののふ”で、
くうが観てるのいっしょに観てたんだとと。
苦笑交じりに言いながら、出だしだろう一節を唄うので、

 「よーし、全部唄ってみ。」
 「えー、何でだよ。」
 「言いじゃんか、俺、生で聞けないんだし。」
 「〜〜〜。じゃあルイ、ピアノで伴奏しな。」
 「夜中だからダメだな。」
 「何だよ、まだ7時台だぞ。」

なあなあと揺さぶられ、
しゃあないかと坊やを抱えたままで立ち上がる、
結局は大甘なお兄さん。
きれいな月も凍えておいでだろうから、
暖かいお歌で励ましてやれば、
あしたはいいお天気に恵まれるかもですよ?






   〜Fine〜  10.11.10.


  *いやはや、本当にいきなり寒くなりましたね。
   なんてまあ、極端から極端なのか。
   冬ってどんな恰好してたかなぁと、
   タンスの中、
   冬服の置き場を決めるのがなんか面倒でね。
   だってまた、急に気温高めになったら。
   あちこち漁らないとならなくなるし……。 

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